落ちない汚れ1
「今回ちょっと多くないですか?」
平木に対して不満だらけである。何故俺はこいつに従っているのだろう。
前回450万で今回820万、一千万には届かないが、それでもこれだけの大金
を運ぶとなると神経が磨り減る。
銀行本社だからあるとは限らない、ちゃんと予約をしておけと言われ仏頂
面しながら頷く。明後日に日本円をCASHで引き出すので用意しておいて欲
しいと会社から支給された携帯からHSBCに予約をいれる。
そして2日後セントラルにあるHSBC本店へ日本銀行券の一万円札820枚を受
け取りに行く。
日本の銀行でもそうだが、香港の銀行も外貨の引き出しをする際に大金と
なると事前の予約が必要となる。毎回銀行内に外貨のCASHが置いてあると
は限らないからだ。
それは、例え本店でも同じ事で、仮に現金が置いてあったとしても事前予
約はしておくべきなのだ。長いエスカレーターを上ると法人口座のカウン
ターに顔をだした。
上のプレミアムカウンターでは、金持ちどもがソファーでコーヒーを飲ん
でくつろいでいる。湿気が多く暑い香港だが店内は冷房が強すぎるぐらい
効いており、長袖を着た銀行員がエリート面して働いている。
日本円で820万を引き出すように窓口の女性スタッフに伝える。
俺には大きな金額だったが、窓口の女性スタッフはそれぐらいの金額では
別に驚きもせず、カウンター奥から紙幣の枚数を数える為の機械を持って
きた。
カタカタカタと札を数える音がする。機械の電光表示が目まぐるしく数字
をカウントしていく。100枚、またこれで100万円 はい次 とあっと言う
間に万札をカウントしていく。
100万円の束が8つと、端数の20万円。400万円と420万円 2つの山に分
けて、ダークな黄色をしたA4サイズのエンベロップで包みこんだ。
それを、鞄に入れてHSBC本社のエスカレーターを俺は降りた。
「ふぅー」と大きなため息を着くと、しっかり鞄を抱きしめて地下鉄で香
港島の西の端にあるオフィスに向かった。オフィスに着くとすぐに鞄から
現金を取り出し、大きなダイヤル式の茶色で光沢のある金庫の中に納めた。
さて、明日はこいつを持って日本へのフライトだ。
「ふぅー」 再びため息がでた。
俺の不幸の始まりは、経理をやっていたという商社くずれの平木という爺
さんを会長が拾い上げ、そいつが香港支社に勤める俺の上司として赴任し
てきた事からだった。