落ちない汚れ20

「お前には悪いが、香港も終わりだ」

 

日本本社の部長から連絡が入った。

 

いつかくる事はとっくに分かっていた。だが、何故だか現実となる

と、ショックは大きかった。

 

本社を辞めた先輩から言われていた。「香港が撤退したからと言っ

て、本社に戻って来るな。もう、この会社に未来はないよ。」

 

グァムを皮切りに、ハワイも全撤退。レストランやブティックまで

あった会社も、すべて無となった。

 

本社からの出向は、自分だけで、すべて現地採用で雇われた日本人

が業務に携わっていたのだが、とっくに見限られて終わっていた。

 

会長の居るロスだけは、撤退とはきいていないが、情報そのものが

香港で一人いる私の所には入って来なかった。まるで、孤島にいる

みたいだった。

 

会社を畳むのに時間はそうかからなかった。事務所兼自宅で、在庫

の商品はすべて本社へ送る。「在庫は悪だ」と思いながら作業をし

ていたものだから、そんなに残らなかったが、会社の愛人だったで

あろう弊社のカタログの素人モデルたちに一時任せた商品買い付け

の時のLip Stick や、イタリアまで行って買い付けてきた売れない

商品だけが、沢山残っていた。

 

特に目ききという訳でないモデル達にイタリア旅行をプレゼント、

 

そんな奴らの通訳兼荷物持ち そして、商品輸送までもが、あれだけ

憧れたイタリアでの俺の仕事だった。

 

イタリアに着くなり、スーツケースがロスト、この国ではよくある

ことだったが、素人モデルさん達は、癇癪を起こしていたのも、思

い出に変わった。911の時もイタリアで買い付けのお手伝いしていた。

 

タクシーの運ちゃんにアメリカで飛行機がビルに突っ込んで、無茶

苦茶な人数が死んだと聞かされたと、一緒に来てた上司に話たら、

馬鹿にされた。

 

その後、TVの電源を入れた上司の口からは、何の詫びの言葉もでな

かったが。

 

法人を潰すには、会計士に詫びを入れ、任せた。

 

さて、これから私はどう生きて行こうかこの間 ずーっと悩んでいた。

分かっていたのだが、後回しにしていた結果だった。