落ちない汚れ16

まったくもって馬鹿げた話だった。このところ平木がよく日本に出

張に行くなと思っていたのだが、それは香港から日本本社へ現金を

運んでいたのだった。

 

いったいどうして?と、思うのだが、よく考えもせずに香港へ金を

送金するものだから、送り過ぎて本社に金が足らなくなるといった

事態が起こっていたのだ。まったく稚拙なやりかたをしたものだ。

 

そして、それは日本の空港にて簡単に捕まる。

 

そんな中、日本の本社でも税務署からの追及が会長に何度もいって

いた。会長は何度もロスへ逃げるも、税務署からの呼び出しを応じ

なければ会社は存続できない。なので、日本へ帰国しては厳しい税

務署からの質問に応じるしかなかった。

 

以前、税務署所長を務めていて、引退した人物を接待漬けにしてい

たこともあった。しかし、それは何も効力を発揮しなかった。

 

追徴課税を払い会社はボロボロとなり、電話営業も新しい法律によっ

て辞める事になったと本社に勤める同僚からきいた。そして、会社

からどんどん人が辞めていく。

 

まるで、沈没しかかった船からねずみが逃げるように会社から社員

がいなくなる。

 

本社から時折届く情報は、あいつも辞めた、こいつも辞めたといっ

た話ばかりだった。また、本社ばかりではなく、グアム、ハワイの

スタッフも退職者が続出した。

 

最終的にグアム、ハワイ、ロスと支社は閉じられた。

 

そして、当然ここ香港も平木が逃げ出すかのように退職することに

なった。理由は年齢によるものとか言っているが、当然会社が傾き、

月100万ももらっていた給料がもらえなくなったからだ。

 

本社から平木の動向はどうだ?とこっそり私に質問の連絡がたびた

び入る。内輪もめが、かなり悪化してきている。

 

もちろん、今後本社から新しい上司が来るわけはない。とうとう私

が香港支社の社長となる。もちろん誰もなりてがいないからだ。と

うとう、平木が香港から逃げた。そして会長から私へと直接連絡が

はいる。

 

「申し訳ないが、パートで雇っている人達のクビをすべて切ってく

れそれと、事務所をたたんで、業務はお前の家で続けてほしい。代

理店との契約があるから、業務は続行しなければならないのだ」

 

ひとりですべての業務を続けなければならない。それも給料はかな

り減る。私は沈没しかかった船からどこへも逃げ出すこともできな

い小さな鼠だった。