落ちない汚れ9

あくる日になると、早速俺は尖沙咀の下着屋へでかけた。
 
「もうちょっと待って、ボスが今中国から戻るから」と昨日のおば
ちゃんが言う。
 
ボスはいいから、とりあえず、商品であるワンダーブラを出してく
れと何度いっても、待ってくれの一点張り。いつまで経っても事が
始まらず、いらいらする。
 
そのうち、昼になってしまったので、外に飯を食いにでかけた。
 
怪しい空気になってきたのは、感じとられたが、どうしてもワンダ
ーブラを手に入れたかった俺は、待つしか方法はなかった。そして、
昼飯から下着屋に戻ると、おばちゃんが俺をみて一言。
 
「商品はない」
 
目の前が真っ暗になり、立っていられない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、これだけ待たせてブラジャーがない
とはいいかげんにせぇ、昨日あるってあれだけ何度も言ったよな。
在庫チェックしてたよな。どういうことだ」
 
怒鳴りまくった。
 
しかし、文句をいくら言っても他のスタッフとべちゃくちゃ訳の分
からん広東語を話すだけで、いっこうに俺の相手をしようとしない。
 
「クソ 騙しやがって、わかったよ、じゃあ金返せ!」
 
「返せられない」
 
「はぁ」
 
その瞬間、思わず自分の持っていた鞄を床に叩き付けていた。
 
頭の血管がキュっと縮んだ。
 
それでも自分でキレルということはこういう事なのかと、客観的に
理解した。
 
ぺちゃくちゃしゃべっていた店員たちが、黙り込み動かなくなった。
店員たちに近づくと店員はあとずさりしながら、上ずった声で警察
を呼ぶと言った。
 
俺は静かに「yes、Call to police」と言った。
 
そして、日本語でおもいっきり逆上し怒鳴り散らかした事を覚えて
いる。これでは上司に対して申し開きが立たない。あれだけ喜んで
もらえたのに。
 
たぶん、顔は真っ赤だったと思う。もう一歩も引くわけにはいかな
い。相手からすると、日本人が何をいっているのか分からない言葉
を思いっきり喚いている姿がうつっているのだろう。
 
気が付くといつの間にか制服の警察官が来ていた。
 
広東語で店員となにやらしゃべっている。
 
そして、今度は俺の所にくるとどうしたのか、尋ねた。
 
「こいつらは、約束を破った。そして昨日支払ったデポジットも返
さないと言っている。」
 
警察が来ても俺の怒りはなかなか収まらなかった。