落ちない汚れ5

彼女ははっちゃんという愛称を持つ女性だった。
 
結論から述べると、真や周りの友人にけしかけられるも、俺の恋は
惨敗に終わったのだった。
 
告白をして「ごめん」と彼女の口から言われる前に、なんと真から
この言葉が俺の耳に発せられた。俺の知らないうちに二人はくっつ
いていたのだ。
 
真は自分から俺にけしかけておいて、いつの間にか自分が彼女をも
のにしてしまっていた。彼の心情は相当心苦しかったに違いない。
 
「い、いいよ いいよ」
 
と言ってみたものの かなり落ち込んだ。告白もできず、1人の女性
を取り合う以前に俺の知らない所で既に決着はついていたのである。
 
俺はかなりのピエロである。間が抜けているのにも程がある。アホ
でどうしようもなく鈍臭い男である。二人が付き合いだした事も全
く気が付かなかった。
 
彼女は、とても家庭的で、非常に可愛らしく魅力的であった。そん
な彼女と付き合えるなんて俺は真の事を非常に羨ましく思った。
 
しかし、若者の恋とは儚いものだった。当時、新聞配達所を出て伊
丹で一人暮らしをしていた真は彼女に部屋の鍵を渡していた。
 
とても家庭的であった彼女は朝食を作ってあげようと朝早く彼の部
屋のドアを合鍵を使って開けた。果たしてそこには、自分の彼氏と
彼女の知らない女が一緒に寝ていたのである。
 
存在するのは修羅場だけであった。彼女の家庭的も優しさも一切そ
こに存在はしない。
 
「男は裏切りに合い落ち込むだけだが、女は裏切りに合い非常に強
くなる。」
 
俺は電話がかかってきた懐かしい声に惹かれ、彼女と会う事にした。
 
数年ぶりに会った彼女は 雰囲気が随分変わっていた。それは決し
て名古屋に出てきて1人暮らしをしていたのだけが原因ではない。逞
しく、そして金持ちになっていたのだった。
 
「ねぇ奢るから御鮨屋さん行こう」と誘われたが、女性に奢られる
のは気が引けたので、それは丁寧に断った。
 
それでも彼女は嫌な顔を見せなかった。
 
歩きながら話す。
 
「本当、懐かしいね」
 
雰囲気が一切変わった彼女が言う。
 
「イタリア行ってたんだって?もうその間何回も自宅へ電話しちゃっ
たよ。」
 
「俺の自宅の電話番号なんか知ってたんだ?」
 
「うん」
 
俺の質問に彼女は返事だけで答えた。
 
「ねぇ、今何の仕事やってるの?」
 
「不動産屋の情報誌の編集をやってる」
 
「仕事楽しい?」
 
「まぁね」
 
「お給料は?」
 
「まぁ そこそこ」
 
「私はね、今50万以上はもらってるの」
 
「え?」