落ちない汚れ11

突然会長から来いと呼ばれた。場所は会長が住むLAにだ。
 
会社は名古屋本社の他に営業所が全国にあり、海外支社は香港の他
にグアム、ハワイにあった。
 
新しくLAの支店ができたので従業員に仕事を教えに行ったのだが、
その時に会長の自宅はハワイからLAに場所を移られており、そこに
訪問させて頂いた。
 
会長の自宅はLAの高台にあり、プール付きの豪華な一戸建てであっ
た。この高台からは、LAの夜景が見下ろす事ができ素晴らしい立地
である。
 
奥様や子供さんたちに囲まれて、幸せそうな暮らしが垣間見える。
 
これが、お金持ちと呼ばれる人の暮らしかと、ただただ驚かされた。
 
「夕食はステーキ食いに行こう」
 
と、高級ステーキ屋に御家族を含めて食べに連れていってもらった。
そこでは、子供たちが明るく笑っており、奥様も微笑んでおられた。
 
「こちらは会長の奥さんの弟さんで、板野充徳さんだ。」
 
以前日本で会長の奥さんの弟で、名古屋でクラブの経営をされてい
た人で紹介された事があったが、奥様ご本人や子供さん達と会うの
はこれが初めてだった。
 
会長の御家族を紹介して頂き、皆で和んでいると、会長が笑いなが
ら誘ってきた。「なぁ、イタリアは諦めてLAに引っ越してこないか?」
 
この頃は、度々会長からのアピールがあった。
 
最初にお断りした時は、仲の良い上司からこっ酷く叱られた。
 
「会社員が会長の命令を聞かず、ロスに行かないとはありえんぞ」
 
その頃、香港人の彼女が居たのと、イタリアに事務所ができるから
という訳でこの会社に入社したのに という理由で会長自らの人事
を蹴った。
 
一度、ロスを見学させて こちらに来させようという魂胆もあって
会長は俺を呼んだのだろう。既にこちらで働いているハワイから連
れてきた若者は、プール付のコテージ風の家に住み、会社で与えら
れている車も運転していた。住宅事情が違う香港にはない贅沢な暮
らしがそこにあった。
 
会長のそばで働くとなれば、栄転でもあり 贅沢な暮らしも そこ
は約束されたも同然だった。
 
若くて気さくな同僚に車でハリウッドに連れて行ってもらい楽しん
だ。また、ラスベガスも車で時々行っている暮らしぶり。空が広く、
気候も良い
 
香港の暮らしとは全く違ったものになるに違いなかった。
 
しかし、もし、ここでLAに行ってしまうと、彼女との別れや二度と
イタリアで事務所ができてそこへ転勤といった話はなくなるだろう
と察しはついていた。
 
だから、会長命令を聞かず俺はLAにはいかなかった。
 
会長のお気に入りだったからなのか、仕事を頑張っていたからなの
か、俺はなんとか許されて香港に留ることができたのだった。