落ちない汚れ8

海外事業部の立ち上げというと、世間ではかっこよく聞こえるのだが、
現実は、泥臭い仕事の毎日だった。
 
40代のおっさんに、まだ20代の若造 そして男2人で扱う商品は化粧
品だった。
 
それも、LANCOME、CHANEL DIOR AREDEN HRなどのヨー
ロッパの高級ブランドのコスメなのでまったくイメージに似合わない。
 
毎日、宛名書きをし、梱包し、発送する。そして、発送が終わった
夕方からサプライヤーに商品の注文をし、SASAなどのほとんど女性
客しかいない化粧品店をまわる。
 
他には、LVやCHANELなどブランド物のバッグも買付商品の一部
だった。
 
最初は女性客ばかりいる店に入るのもためらっていたが、それは次
第に慣れていった。
 
しかし、日本でワンダーブラというアメリカのブラジャーが流行っ
た時はほとほと参った。日本人観光客がたくさん集まるデュティー
フリーで、おっさんと若造のコンビが女性用のブラジャーを買いあ
さる姿は、とてもじゃないが、日本にいる知り合いには見せられた
ものじゃなかった。
 
俺は純粋に上司に褒められたかっただけである。
 
毎日、汗を垂らして俺と一緒に仕事をするその上司の事を気に
いっていたからに違いない。
 
あまりの人気だった為かワンダーブラはデュティーフリーで品薄に
なり、脚を棒にして、香港中の下着屋を探しまわった。
 
ある日の事だった。俺は街中で女性用の下着屋を見つけ、堂々と
入って行き、尋ねた。
 
「ワンダーブラ というのを探しているんだけど ありますか?」
 
すると女性店員はこう答えた。
 
「ありますよ」
 
 え!? 
 
「ヨシ!」と心の中でガッツポーズをとった。
 
明日になれば在庫を持ってくるという。
 
俺は、本当か? 本当にあるんだな?と何度も何度も尋ねた。俺の
念のいれように、香港人のおばちゃんはしつこいなといった顔で答
えた。
 
それでは、デポジットを払ってくれというので、千ドル札を20枚数
えて、2万ドルもの大金を支払った。
 
褒めてもらいたい、お前は役に立つなと思ってもらいたい。
 
「見つけましたよ、ワンダーブラ。本当ミラクルですわ」
 
颯爽とオフィスに戻ると、俺はもう得意げに上司に伝えた。
 
「お!本当か! よくやった」と上司も機嫌よく褒めてくれた。